2023.11.30ステッチとウレタンの対立!
モジュールの落とし穴!
すべてを乗り越え、
新たな情緒的価値へ。
特殊なデザインシームミシンによる意匠性の高いステッチやベースの無垢材による温かみある質感が魅力のモジュールソファ「トフィー」。スペインのデザインスタジオ「STONE
DESIGNS」とのコラボレーションから始まり、その開発は圧倒的にチャレンジングなものとなりました。
そこで今回は、初めての試みの連続だった「トフィー」開発にまつわる物語をご紹介します。
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スイスのキャンディーから生まれ、
コロナ禍の空間づくり6ヵ条を反映。「トフィー」のデザインは、スペイン出身のクトゥ・マスエロス氏とエバ・プレーゴ氏が率いる「STONE DESIGNS」とのコラボレーションから生まれ、スイスの伝統的なキャンディーに着想を得ています。「STONE DESIGNS」は、コカ・コーラ、ロレアル、レクサス、アディダス、良品計画をはじめ、様々なグローバルカンパニーのプロジェクトに数多く携わり、世界的に高い評価を受け続けてきたデザインオフィスです。
コロナ禍のパーティションによる圧迫感や息苦しさを、心地よさに変えた「トフィー」。その情緒的価値の背景には、「STONE DESIGNS」が提唱する「コロナ禍における空間づくり6ヵ条」の要素が含まれています。(下記は要約)
1. Acoustics 適切な音響管理
適切な音響管理が叶えられている空間では、低めの穏やかな声で話すことができ、リラックスした状態で長時間の滞在が可能。
2. Anti-Excess 過剰を避ける
材料の無駄がなく、必要なものだけに美しさと快適性を見出すことが大切であり、それは私たちの責任でもある。
3. Contactless 非接触
レストラン・オフィス・ホテル・公共スペースにおいて、当たり前のことになりつつある。
4. Bespoke 注文製作
空間内の各要素を注文製作でデザインすることで、それぞれの材料の選択や、品質と生産における厳格なコントロールができるため、より持続可能な空間につなげられ、プロセスを効率化できる。さらに、ブランドの価値が各デザイン要素に完璧に反映され、ユニークなエッセンスが空間にもたらされ、不要な要素を取り除いて本当に重要な要素に焦点を当てられる。
5. Space Segregation 空間分離
安全で快適な環境の実現には、混雑を避けることが重要。例えば、従業員が全員同時に集まるキッチンではなく、スペース全体に小さなキッチンを分散配置することで、不必要な混雑を避けることができる。そしてそれはオフィスにおいても同様で、社内スタッフと外部からの訪問者が使用するエリアを分けるように配置することによって、さらに快適で清潔な環境が維持しやすくなる。
6. Efficient Materials 効率的な材料
持続可能性・耐久性・機能性・美的要素・清潔さ、そしてもちろんコストを含めた様々なことが効率に深く関係してくる。材料を選択するにあたって主に考慮すべきポイントは、どのブランドと連携するのか。最高の技術を備えたパートナーと一緒に取り組むことが、成功するプロジェクト、将来に影響を与えるプロジェクトへの第一歩。
ステッチの位置ズレ!シワシワ!
特殊ミシンによる初の試みに奮闘「トフィー」のデザインの大きな特徴が、張地に映えるアクセント的なステッチです。従来のステッチは縫い目の補強が主な目的でしたが、近年ではそんなステッチのスタンダードを覆し、「縫い目の補強ではなく、意匠性のみを目的とした全く新しい概念のステッチ」が生まれ、注目を集めています。そこでアダル総合工場に導入されたのが、意匠性を目的とした特殊なステッチを施せる「デザインシームミシン」でした。そして、この「トフィー」こそが、「デザインシームミシン」を駆使して誕生した初めての製品です。
初めての試みだったため、ウレタンの反発率とステッチの相性がなかなか合わず、デザイナーが思い描いた位置からステッチがズレている、ステッチを施した箇所にシワが寄るなど、想定以上の試行錯誤が待っていました。
ウレタンが柔らかすぎるとシワが発生し、逆に硬すぎるとクッション性が失われるため、様々なパターンで何度も検証し、ステッチとの相性も座り心地も良い最適な反発率のウレタンを探り出していったのです。
モジュールならではの落とし穴!
完成間近で、量産向け構造図が必要に。「トフィー」は、ワークプレイスの様々な空間でフレキシブルに使いやすいモジュール設計です。しかしその製作過程においては、各ユニットが独立したモジュールならではの落とし穴に悩まされることとなりました。
最初の試作までは、すべてのユニットをまとめて製作しましたが、それ以降は別々の職人が各ユニットを担当し、それぞれに調整を重ねていったため、ユニットを組み合わせたときに隙間が生じてしまったのです。試作後の改良・調整を経て、まさに今から撮影に臨むという段階でした。
そこで開発担当の井川は、意匠性を重視した図面だけでなく、構造図が必要と判断。複数名で分担しても誰が何を担当しても、必ず各ユニットが美しく組み合わさるようにできなければ量産は不可能なので、より詳しく明確な構造図の作成に着手しました。
ウレタン・木材・ベースそれぞれの担当者が残していた精度の高いメモがあったため、その情報をもとに仕上げることができ、各ユニットが必ず美しく組み合わさる量産体制も整っていきました。
新たな試みを重ね合わせ、
A.T.I.Cを象徴するプロダクトへ昇華。「トフィー」開発の担当者として、アダル入社後すぐに抜擢されたのが井川でした。「前職では、海外の工場で7年間ほど家具製作の管理者をさせていただいていたのですが、実は上張りのあるアイテムを担当することが初めてで、もちろんデザインシームミシンも初めてで、すべてがチャレンジングでした。さらに、ミシンと同じく工場に導入されたばかりの多軸CNC加工機械(刃物が3次元に移動し、曲面や立体的な木材の削り出しが効率的にできる機械)も活用して、本当に初めての連続でしたね」と語ります。
「工場の皆さんが、自身の担当だけでなく次の工程のことまで考えて提案してくださるので、すごくありがたかったです。次の工程で起こることを予測して、スムーズに進むように調整してもらっていました」と続けながら、ベースの木部に関して印象的だったことについてもふり返ります。
「ベースの無垢材もデザインのポイントですが、その厚みが必要以上に厚すぎてもったいないということで、外から見えない部分には別の木材も組み合わせて対応した方がいいとアドバイスをもらいました。別の木材を組み合わせるとなると、工場の担当者にとっては工程が増えてしまいます。しかし工程が増えることになっても、デザインと歩留まりのバランスを考慮して提案してくださったんですね。本当に初めてのことばかりでしたが、工場の皆さんの心強いサポートがあって素晴らしい製品に仕上げることができ、すごく感謝しています」
意匠性はもちろん、外からは見えない部分の精度も高めて完成した「トフィー」。ステッチと張地の相性についても数十パターンにわたって分析し、今後の「デザインシームミシン」の活かし方まで鮮明になっていきました。 海外デザイナーとのコラボレーション、新たな機械による特殊な加工、そして生み出されたシンプルかつ機能的で情緒的な価値。すべてがチャレンジングな「トフィー」開発は、A.T.I.Cを象徴するプロダクトへと昇華しました。
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企画開発室
井川 貴裕
日本で家具メーカーに就職後、単身でベトナム、タイでの現地採用として7年ほど働き、 家具の企画開発から生産管理業務、新工場立ち上げ等の経験を経て、2020年にアダルに入社。 現在は、企画開発室にて家具の商品開発、海外メーカーから仕入れ担当、及び海外生産協力工場でのOEM開発、 新規工場開拓など、主に海外メーカーとの業務を担当。
密かな楽しみは、海外出張に行く度に、新たなお店を見つけること。