2023.10.31リチャージに直行したくなる
ソファの理由!
想定外のウレタンで、
“もちもちたぷん”を実現。
多様な空間に合わせやすいベーシックな佇まいでありながら、思わず吸い寄せられて座りたくなる、ふんわり・もちもち・たぷん。オフィスのリチャージスペースに最適な際立つクッション性が生まれるまでには、様々なストーリーがありました。 そこで今回は、ウレタンの選定や構成決めなど、「オリー」にまつわる開発秘話をお届けします。
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リラックスに特化し、
“もちもち”を追求。
まさかの答えは、快適な睡眠の中に。仕事の合間に心身をリフレッシュでき、生産性向上にも貢献するリチャージスペース向けソファの開発がスタート。もともと「A.T.I.C」には金物脚でシャープな印象の「クロスレグ」という人気ソファがあり、その「クロスレグ」と対になるデザインを開発して幅広くアプローチしていけるようにすることもポイントだったため、ウォーターベッドのような“たぷん”としたボリューム感、そしてナチュラル感を意識した開発が進められていきました。
ソファ=くつろぐというイメージが一般的ですが、業務用家具の場合は想定したシーン・用途によって座り心地を変えるので、全てのソファがくつろぐために設計されているわけではありません。だからこそ「オリー」は徹底してリラックスに特化し、ずっとくつろいでいたくなる座り心地、ふかふかの触り心地を追求しています。
それでは、理想の座り心地とは何でしょうか。今回の開発にあたってイメージしたのは、「そのソファが空間の中での定位置(お気に入りの場所)になるような座り心地」です。「座った瞬間のファーストタッチ」と「座っている最中に徐々に沈み込んでいく感覚、包まれる心地よさ」を重視しました。まずファーストタッチは、座面の上に厚手の樹脂綿を入れることにより、座った瞬間からふわっと心地よく。そして沈み込んでいく感覚、包まれる心地よさは、“もちもち”とした座り心地の新触感によって実現しています。
しかし、この理想の“もちもち”にたどり着くまでには想像以上の試行錯誤がありました。これまでの既存製品のウレタン構成を参考にし、通常使用しているウレタンやバネなどの下地材を足したり引いたりしながら色々なパターンで進めましたが、どれも納得できず。どうすれば打開できるのか悩んでいたとき、偶然にも別プロジェクトの納品に訪れていたウレタンメーカーの担当者が何気なく紹介してくれたのが、主に寝具に用いられている低反発ウレタンだったのです。
通常は寝具に用いられる低反発ウレタンなので、これまでアダルで使用したことはありませんでしたが、それこそまさに求めていた触感。理想の座り心地を実現できると確信し、すぐに採用が決定しました。
まるで眼鏡レンズの度数設定のように、
ウレタンの最適な構成を何度も検証。寝具用の低反発ウレタンに可能性を見出し大きな一歩を踏み出したものの、まだ表面のウレタンが決まっただけであり、その下の階層のウレタンや下地によっても座り心地が変わるため、「ウレタンの構成決め」という最大の壁が待っていました。
沈み込みは大切ですが、あまりにも沈み込みすぎると立ち上がるときに腰へ負担がかかり、座りたくないソファになってしまうので、企画当初から求めている座り心地を実現するには、眼鏡レンズの度数設定のように細やかな調整が必要だったのです。
例えば、「1層目に柔らかめのウレタン、2層目に薄くて硬めのウレタン」で構成してみたところ、沈み込みすぎて立ち上がりづらくなりました。次に「1層目に薄くて柔らかめのウレタン、2層目に硬めのウレタン」で構成して試してみると、硬さの方が強く感じられてしまい、せっかく採用した低反発ウレタンの柔らかさが活かされないことが判明・・・というように、ウレタンの組み合わせを何度も何度も変えながら検証。しだいに理想の座り心地へと近づいていき、ようやく“もちもちたぷん”が生まれました。
また、「オリー」は脚部にオーク材を使用しているところも特徴ですが、その脚部にも紆余曲折がありました。オーク材のナチュラルさを活かしボリューム感も出すため、脚と土台の付け根をなだらかな曲線デザインでつないで試作を実施していたところ、定価設定のミーティングで見直しが入ります。「この脚の曲線デザインにもすごくこだわりがあったので、見直しが入ったときには全く納得していない感じを出していたと思います(笑)」と微笑むのは、開発を担当した白水。
その言葉通り、納得はしていないものの渋々ストレートデザインに変更して試作を行いました。すると驚くことに、たぷんとしてボリューム感のある座面とスッキリしたストレート脚のバランスが美しく、逆に好影響をもたらしたのです。「結果的にプロポーションが良くなり、なおかつ定価を下げられてオーダーしていただきやすい価格にできたので、変更して本当によかったです」と振り返ります。
工場とのイメージ共有を工夫しながら、
理想の“たぷん”へブラッシュアップ。「今回は図面だけでは表現しづらい部位が多かったですね。工場担当者への伝え方、意匠の意思疎通のところで、これまでにない難しさを感じました」と白水は続けます。通常は背裏(ソファの背面)にはあまりウレタンを入れずにペタッとさせることが多いところを、「オリー」の場合はふんだんに樹脂綿を入れて“たぷん”とした形状を実現させているのですが、この“たぷん”のイメージ共有にも試行錯誤がありました。
図面だけで表現する限界を感じた彼は、1次試作を経て2次試作に向けブラッシュアップしていく段階から、「実物を撮影→スケッチを入れて共有する」という方法を試みます。背のふくらみを足す、マチを高くしてシワをなくす、もっと木部が見えるように削る、座クッション間の隙間をなくす、裏面下部の木部のエッジが出るように肘の仕上げと合わせる・・・・・全て細やかに画像とスケッチで伝えるようにしたところ、工場担当者とイメージが合致するようになり、“たぷん”とした形状やディテールについて磨き上げていくことができました。「工場では日頃から難易度の高い特注品も数多く製作しているため、これまで使ったことのない素材でもデザインの意図を汲んで臨機応変に対応してくれるので本当に頼りになります。今後はスケッチだけでなく、CGでもウレタンのファジーな形状を表現し、工場担当者とイメージを共有できるよう絶賛勉強中です!」と力強く語ります。
リラックスに特化し、オフィスのリチャージスペース向けのソファとして開発された「オリー」ですが、実際のところは旅館や葬儀場など様々な空間でも活用していただき、オフィス以外にも活躍の場を広げています。座ったときに感動と心地よさを、その空間に情緒的な価値を。これからもたくさんの人々に愛され、必要とされるソファであり続けます。
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企画開発室
白水 亮佑
建築金物のメーカーにて建築金物や家具のデザイン・設計を経て2018年にアダルに入社。 現在は企画開発室にて家具の商品開発、カタログ制作業務に携わる。
家では植物に囲まれながら生活し、週末はサウナで心身ともに整えている。