2023.09.30制約の先に、いくつもの分岐点!
削ぎ落として浮かび上がった“素朴”
天板に天然の突板、脚に無垢のオーク材を使用し、まるでカフェのダイニングテーブルのような柔らかな素朴感を描き出した「ポルボ」。多様な働き方に対応する昨今のワークプレイスに寄り添いながら情緒的価値をもたらすビッグテーブルですが、その開発は取捨選択・分岐点の連続でした。
企画当初は想定していなかった難題とも向き合う中で削ぎ落とされ研ぎ澄まされ、完成へと至った「ポルボ」のストーリーをご紹介します。
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天板は天然の突板、脚は無垢のオーク材。
情緒的な価値をもたらす“素朴”の追求へ以前からビッグテーブル製作のオーダーが増えていたこともあり、ワークプレイス向けの既製品ビッグテーブル開発が始まりました。スペック・ラインナップ・メンテナンスのしやすさといった機能的価値に寄って製作されることの多い従来のオフィステーブルとは違う発想で、柔らかくカジュアルな印象の木質感や、使っていて心地よい肌触りなどが生み出す情緒的価値も追求しながら企画。
昨今のワークプレイスにおける多様な空間との調和性、もっと気軽にフレキシブルにミーティングやコワーキングがしやすいデザイン性を重視し、「カフェのダイニングテーブルのような佇まい」で「素朴」という方向性を導き出しました。
天板に天然の突板を使用しているところが大きな特徴で、脚には無垢のオーク材を採用。製品名はフィンランドにある2番目に古い街に由来していて、その街並みが素朴で落ち着いていて暮らしやすそうだったことから、「ポルボ」に決定しました。
脚の形状は、ストレートにするとあまりに素朴すぎてしまうため、斜めの八の字デザインに。八の字にすることで安定感・強度の確保もでき、さらに座ったときの足のスペースが広がって使いやすさにもつながっています。天板のアールか、船底形状の小口か。
試作の中でシフトチェンジを決意「ポルボ」は、天板が天然の突板であることに加え、天板の四隅がアールになっていることで、親しみやすく柔らかな印象を強めています。
企画当初は、さらにデザイン性を高めるため、船底形状の小口にもこだわっていました。しかし、天然木にこだわり、四隅のアールと船底形状の小口どちらも成立させるのはコストの面で難しいという判断に至りました。 コスト面を考慮しながら、どちらの意匠も成立させるためには、小口にMDFという異素材を使うことになり、木の不自然な境界線ができてしまいます。
開発のメイン担当者である緒方は、船底形状の小口にもこだわりがあったため、なかなか諦めきれず悩みました。四隅のアールか、船底形状の小口か。どちらを優先すべきかの答えは、工場との試作段階で導き出されました。
「工場の担当者が、船底形状ではないパターンの試作品を実際につくって提案してくれたんです。そして同時に、線を隠した塗装パターンの船底サンプルまで見せてもらえました。私はその試作を目にした瞬間に、船底形状の選択肢は捨ててアールを優先していいと決断できました」と語ります。
小口を船底形状にはせず、四隅のアールだけを選んだことで、結果的にシンプルな素朴感が研ぎ澄まされ、ボリューム感の演出にもつながりました。また、テーブルを囲むように座ったとき、四隅が角ではなくアールなので距離感が縮まり、柔らかな一体感も醸成します。
次々と立ちはだかる制約。
分岐点を突破しながら、想像以上の理想へ当初は想定していなかった制約が立ちはだかり、取捨選択が必要な分岐点はいくつもありました。
脚の直径についても、全体的なデザインバランスを考慮し、ぽてっとした可愛らしい印象に仕上げるために太めの70mmで設定していましたが、無垢材から丸で切り出せる最大の大きさが60mmであることが分かり、一旦ストップ。再び仕切り直し、図面はもちろん3Dモデルでも検証を重ね、最終的に60mmへの変更を選びました。また、センターに位置する2本の脚は2つの天板をつなげる役割も果たしているので斜めの複雑な形状にすることが難しく、すべての脚を斜め八の字に揃えることはできなかったものの、構造の特性を優先してセンターの2本をストレートにしたことで逆にスッキリとシンプルな印象になり、両サイドの斜め脚が引き立つという想像以上の仕上がりにたどり着きました。
木の表情にフォーカスした“素朴”を実現。
アレンジしたくなる余白も魅力「実は最初は、植栽ユニットを設置したい、コンセントやライトも付けたいという感じで、様々な機能の追加を考えていました。そのため今回のプロジェクトは、当初の盛り沢山プランと現実的なプランとのバランスを調整しながら理想の“素朴”を追求していった印象が強いです」と語る緒方。想定していなかった制約にぶつかっても真正面から向き合い、その中で着実に選択・決断していった結果、想像以上の理想に昇華されていきました。
「配線用開口オプションがあり、配線ボックスを天板裏にセットできるのですが、天板の上にコンセントを設置するよりも見た目がシンプルなので、デザインの世界観を保つことができて結果的によかったですね。テーブルの四隅に合わせて開口部分をアールにしているところもポイントです。オルガテックでポルボを展示させていただいた際、本当にすごく良い反応をいただけて嬉しくて。従来のオフィス用テーブルには見られないデザインなので少し不安もありましたが、愛着を持ってもらえるテーブルなんだと確信できました。工場チームのおかげで、とても美しい仕上がりになって感謝しています。素朴だからこそ、その美しさが際立って分かりますね」と微笑みます。
様々な選択を経て削ぎ落とされ研ぎ澄まされ、シンプルで素朴な木の表情にフォーカスしたビッグテーブルへとたどり着いた「ポルボ」には、大きな魅力がもうひとつ。それは、シンプルで素朴な「ポルボ」ならではの“余白”です。場所に合わせたサイズ変更など別注のオーダーも多く、「既製品のカスタマイズ対応」というアダルの強みを発揮できるテーブルになりました。 「ポルボ」をベースにしてアレンジしたくなる、使い道のアイデアが湧いてくる。そんな“余白”が、これからのワークスペースの可能性を広げていきます。
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展示会や学会のブースデザイン・設計を経て2019年に入社。
企画開発室にてA.T.I.Cvol.8の商品開発やカタログ業務に携わる。
2022年4月に本社プランニング室へ異動し現在は、カタログ発刊に向けたプロダクトマーケティング業務やADALの過去の特注品を元にコレクション化したBespoke Furniture Collectionの制作を担当する。
趣味は和菓子を眺めることと食べること。中でも練り切りと外郎が大好物。