2023.07.31デザインの沼から抜け出す
きっかけは意外なところに!
A.T.I.Cの系譜が生み出した突破口
なだらかでスマートなAラインのプロポーションに、木とスチールの異素材組み合わせが個性を放つカウンターチェア「アーク」。理想のデザインを具現化するために様々な課題をクリアする必要がありましたが、その最大の壁を突破するきっかけは意外なところにありました。
「アーク」が生まれるまでのストーリー、ぜひご覧ください。
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初期タイプから座面を大きく変更。
「なだらかさ」を追求し、ブラッシュアップ昨今のワークプレイスにおいて、カウンタータイプのカフェスペース(リチャージスペース)が増加傾向にあるという流れをふまえ、カウンターチェアの開発が始まりました。
ワークプレイスに情緒的な価値をもたらす1脚にするため、座り心地だけでなく手触りも心地よく、ナチュラルな雰囲気の空間に合わせられるデザインを目指し、「なだらかさ」をコンセプトとして設定。直線が少なく柔らかさのあるAラインのプロポーションが特徴的な初期デザインが完成しました。
そして、そのカウンターチェアに名付けられたのは、円弧という意味の「アーク」。なだらかで直線が少なく、まるで円周の一部のような柔らかさを描くことへの想いが込められています。アルファベットにするとAラインのAから始まっているところもポイントでした。
さらに、トレンドの異素材ミックスもとり入れ、オーク材の木製バースツールにスチールの足掛けリングをアクセントとして効果的にレイアウトし、デザイン性を高めています。
しかし、初期デザインの段階では座面部分がクッションだったため、どうしても膨らんで見えてしまい、ややいびつなプロポーションでした。
開発チームが納得できる「なだらかさ」には達していなかったので、そこからブラッシュアップが始まります。
様々なアイデアを出し合い、試行錯誤を重ねた結果、クッションではなく座面を三次元に削ることで座り心地の良さを確保しながら、スマートかつ柔らかな印象に仕上げるという表現にたどり着きました。また、別パーツとして構成される座と脚の接合部には目地を入れることが一般的ですが、目地の存在が「なだらかさ」を損ねないよう、目地を目立たせない入れ方にも徹底してこだわっています。
そうして、いくつもの課題を解決しながら進んでいたところに、なかなか抜け出せないデザインの沼が待ち受けていました・・・ -
脚とリングの接合方法で印象が激変。
3つの方法を検討するもデザインの沼へ・・・なだらかでスマートで柔らかさのあるプロポーションを具現化するため、細部にまで徹底してこだわって進めてきたプロジェクト。しかしここで、最大の壁にぶつかります。それは、脚とリングの接合方法でした。その接合方法の違いで、デザインの印象がガラリと変わるのです。
そこで開発チームで意見を出し合い、3つの方法を検討。まずは、脚の外側をリングで囲み、ビスで固定する方法でしたが、それではビスが丸見えになり、スマートな印象が台無しに。2つ目は、脚の接合部分を加工してリングをはめるカギ込みでしたが、その加工の工程が量産に適していないため断念。3つ目としては、リングの下にL型のプレートを入れて支える方法も試みましたが、最初のビスほど丸見えではないものの、やはりスマートさが損なわれてしまい、結論は出ませんでした。
それでは一体どうすればいいのか。それぞれに難点があって納得できない、答えを見出せない。出口を見つけられず、手探りの日々が続きました。
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異素材テーブルの足元を見ながら、何気なく一言。
それは、A.T.I.Cの系譜が生み出した突破口リング接合部分のデザインで悩み苦しむ中、突破口が見つかる瞬間は急に訪れます。
それは夕暮れ時、なかなか結論が出せず疲れた雰囲気も漂う企画開発室。いつものように、A.T.I.Cシリーズの「トーイ」をミーティングテーブルとして使用しながらミーティングが行われていました。トーイも同じく異素材ミックスの斬新なデザインが特徴なので、開発メンバーの一人が何気なく「たとえば、このトーイは脚の接合部分を小判型にしているけれど・・・」と発言。その瞬間、「あっ、決まった」という空気が流れ、大きな大きな 突破口が開かれたのです。
そうして、脚とリングの接合部分に小判型をとり入れた「アーク」。小判型にすることで、クールすぎない可愛らしさ、親しみやすさを生み出すデザインとして機能する結果につながり、同じA.T.I.Cシリーズで異素材ミックスのトーイとディテールを合わせているためコーディネート性も高まりました。いつもミーティングテーブルとして使用していたトーイを、課題を抱えた状態の視点で見つめ直し、開かれた突破口。なんとなく目に入り、何気なく発した一言ではありますが、それは決して偶然というだけではなく、これまでのA.T.I.Cの大きな流れ、“系譜”がなければたどり着けませんでした。「ワークプレイスに情緒的な価値を」という揺るぎないコンセプトのもと、その長い系譜を丁寧にたどり、ついに「アーク」が完成します。
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鑑賞するのではなく、座って使うもの。
どこをゴールにするのか、開発者としてのターニングポイントに「アーク」は、マットナチュラルとモカブラックの2色展開です。マットナチュラルは、その名のとおりナチュラルな雰囲気の空間デザインに合わせやすく、味わい深い天然オークの素材感も魅力。モカブラックは「同色異素材」のトレンドから生まれ、光があたった時のスチールならではの鈍い反射と木部との異素材コントラストが美しく、スタイリッシュと柔らかさのバランスが特徴です。
「アーク開発のプロジェクトは、デザインに対するこだわり方へのターニングポイントになりました。家具は鑑賞するものではなく、実際に座ったり物を置いたりしながら長年にわたって愛用していただくものです。そのため、強度を確保しながらも、どこまでデザインにこだわることができるのか。そこに難しさや面白さがあると思います。強度とデザインのバランスを3Dプリンターでも検証しながら進め、どこをゴールにするのか丁寧に決めていきました」と語るのは、開発のメイン担当者である白水。
「最初は予定していなかったのですが、強度を高めるために座面の裏側にリブを入れて補強することになり、なだらかでスマートなAラインの妨げにならないように入れるにはどうすればいいかと悩みました。リブの存在感を極限まで抑えたかったので、アーチ状にして外からは見えづらくする解決策を出したことも印象に残っています」とふりかえります。
どこをゴールにするのか、納得できるゴールのために何ができるのか。ずっと愛用していただける家具づくりのため、目に見える部分だけでなく、強度などの見えない要素まで含めてデザインし、これからもストーリーを続けていきます。
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企画開発室
白水 亮佑
建築金物のメーカーにて建築金物や家具のデザイン・設計を経て2018年にアダルに入社。
現在は企画開発室にて家具の商品開発、カタログ制作業務に携わる。
3DプリンターやCGなどDXを活用した商品開発を率先して行っている。
家では植物に囲まれながら生活し、週末はサウナで心身ともに整えている。