2023.06.30過去の経験を活かす・・・
はずが逆に遠回りに!?
3つのテーマを背負った
ミーティングチェアのストーリー。
今回ご紹介するのは、デスクワークやミーティングに最適な座り心地をもたらし、スタイリッシュなシートに施されたアクセントのパイピングが、ワークプレイスに情緒的な価値をもたらす「ローレンスチェア」です。
過去の経験を活かして効率的に開発を進めていける・・・だったはずが、思いもよらない落とし穴がありました。
そんな1脚が生まれるまでのストーリー、ぜひご覧ください。
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類似品の開発経験を活かして効率化
・・・ところがまさかの極狭座面!?A.T.I.C vol.8のコンセプトに則ったオリジナルなミーティングチェアの開発がスタート。ファブリックの手触りや柔らかな印象が情緒的な価値につながると考え、ファブリック張包みタイプのミーティングチェアを開発する方向で動き出しました。デザインのソースは、既存ラインナップの「ローレンスソファ」から引用し、そのファミリー展開としての位置付けをとするなど、大枠の商品企画までは迷うことなくトントン拍子で進んでいきました。
次に実際の寸法設計に入る段階で参考にしたのが、別カタログである業務用家具カタログでオフィスのミーティングエリアに人気の「レイチェア」です。今回の開発期間が通常よりかなり短縮を余儀なくされていたこともあり、過去の開発事例を活かせるのは、効率の面でも大きな意味があったのです。
しかし試作品の途中を見た瞬間、衝撃が走ります。驚くほどに座面が狭すぎたのです。これでは狭すぎて座り心地どころか、座ることすらできない!図面の数値が見間違えられているのでは?と思うほどでした。しかし、実際に確認をしてみても、しっかりと図面の数値通りに製作されています。
それではなぜ極狭座面に?・・・その理由は、あまりにもシンプルでした。
レイチェアはサイドから後方に向けて包み込むようにラウンドした形状が特徴ですが、今回のローレンスチェアは直線を基調とした形状のため、レイチェアの寸法を参考にすると座奥が極端に狭くなってしまいます。その違いを見落としたまま、同じ用途のミーティングチェアいうことで、原寸での寸法検証をせずに試作へ走ってしまったことが大きな落とし穴となりました。過去の経験を活かして効率化を図ったつもりが、逆に遠回りする事態に。試作は一旦ストップ。検証の結果、座奥寸法を2cmずつ横に広げることで解決。ようやく次の段階へと進んでいくことが出来ました。 -
ミーティングチェアに必要な
座り心地とは?
最適な姿勢のキープとフィット感を
求め、試行錯誤の連続。次の課題は、ミーティングチェアに求められる座り心地とは?ということでした。人間工学に基づいた適切な姿勢のキープとクッション性について、業務用家具カタログの「レイチェア」では追求しきれなかったことも、「ワークプレイスに情緒的な価値を」をテーマに据えたA.T.I.Cvol.8だからこそ目指せる領域があります。
「デスクワークやミーティングに適した姿勢をキープするためには、座面の角度を水平から4度、背中は105度の傾斜が一つの目安として椅子を設計する人たちの間では広く知られています。さらに座り心地には、腰のフィット感が大きく影響します。椅子との間に隙間ができないことが大切です。そのため、ウレタンをもう一層入れて2層構造にし、ふくらみをもたせることでフィットするように工夫しました」と開発担当の葉玉は語ります。
また座面にも高反発でグレードの高いウレタンを採用し、人間工学に基づいた角度へ調整しながら試行錯誤を重ね、ミーティングチェアとして着座姿勢もクッション性も理想形に近い「ローレンスチェア」へたどり着きました。
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“型”にはまらず、量産からの脱却へ。
新たな生産スタイルの試み今回の開発にあたり、彼にはもう一つのテーマがありました。この手のシェル形状のシートを型を使って海外の工場で量産するのではなく、ベニヤを組み合わせて製作することで1台からの自社工場受注生産にしたいというものです。しかしそれは初めての試みとなるため、工場の担当者に考えを伝え、不安を払拭してもらい、気持ちを合わせながら一緒に取り組むことが必要です。
そこで、まず彼自身が段ボールで実際にサンプルをつくり、工場に持ち込んで相談をしました。型を使わないという提案は、工場の担当者にとっては戸惑うことでしたが、段ボールサンプルとともに熱意を伝えながら試作へ。
ベニヤを組み合わせる初めての構造ではあったものの、工場の技術力と探究心で、強度試験を無事にクリア。量産からの脱却、新たな受注生産スタイルが実現しました。
「過去の開発経験があることが油断につながり、見落としに気づかないまま試作へと走ってしまいました。
今ふりかえっても、なぜ気づかなかったのだろう?と反省しています。
どのような場合でも、ゼロベースで考え抜くことの重要性を痛感したプロジェクトでした」と語ります。開発プロセスの効率化、人間工学的アプローチ、従来の生産方法からの脱却という3つポイントをテーマとして生み出された「ローレンスチェア」。
ワークプレイスに情緒的な価値を、開発プロセスにも新たな価値をもたらしました。そしてまた私たちは次の開発に向け、ゼロベースでスタートラインに立つのです。 -
葉玉 研治
2004年入社後、品質管理、企画開発を経て2018年に経営企画室を創設。
商品開発で培った“デザイン思考”を経営にもたすことをテーマとしながら、多くの新規企画、事業、部署立ち上げに携わる。
多忙を極める中、あえて平日に休みを取って行くサウナとソロキャンプが活力の源。