Year 2022.8
十勝川モール温泉 清寂房
- 分野 HOTEL
- プロジェクト名 : 十勝川モール温泉 清寂房
- 所在地 : 北海道河東郡音更町十勝川温泉南16丁目1番地19
- 担当 : 松川 泰樹
- 部署 : 札幌営業所 所長
十勝の大自然とつながり、非日常へと続いていく。歴史と風景のレイヤーを重ね、辿り着いた唯一無二。
どこまでも広がる十勝平野のほぼ中央、十勝川のほとりに、2022年8月30日「清寂房」が生まれた。国内はもちろん世界でも非常に珍しい十勝のモール(植物性)温泉を活かし、24室の客室すべてに源泉かけ流しの露天風呂を設置。総平屋建ての宿からは、十勝の大きな空や森、さらには十勝の四季折々の風景を映す中庭が見渡せ、一期一会の心地よい静寂に包まれる。
中央の母屋(管理棟)と、その外側に連なる房(客室)は回廊でつながり、建物の中にありながら、まるで「はなれ」のような設計も特徴的。設計を手がけたのは、国内外で幅広いジャンルの空間創造に取り組み、世界で最も権威のあるデザイン賞の一つ「iFデザイン賞」の受賞をはじめ、世界的に高い評価を受け続けている建築家・小西彦仁氏。
そこで今回は、「十勝川モール温泉 清寂房 (株式会社タスクMホールディングス)」代表の石村圭史氏、そして建築家の小西彦仁氏の2名にインタビューを実施し、どこにもない非日常を提供する宿づくりについて、さらには家具選定における視点についても深掘りしてお届けする。
十勝の壮大なスケール感を活かし、他にはない一期一会の非日常を。
畳の回廊でつなぐ非日常の和空間。室内にいながら十勝の大自然を堪能。
株式会社タスクMホールディングス
代表取締役 石村圭史
コロナ禍の影響で、北海道に観光・出張で訪れてくださるお客様の数が減り、特に団体でのご利用が少なくなりました。そこで、個人のお客様に向けたハイクラスな宿づくりを目指して新たに動き出し、誕生したのが「清寂房」です。国内はもちろん、世界的にも非常に珍しい十勝のモール(植物性)温泉を活かし、全室源泉かけ流し露天風呂付きの旅館です。
「清寂房」にしかない非日常の和空間をお愉しみいただきたいので、長い回廊はすべて床暖房対応の畳です。そして、その畳の回廊が、レストランや大浴場などがある管理棟と、管理棟を取り囲むように連なる客室をつないでいます。さらに建物の中央には、十勝の四季を映し出す中庭があるため、1歩も外に出ることなく作務衣1枚で館内を移動でき、室内にいながら十勝の美しく大きな自然を体感していただけます。
最初の光景を、一期一会の記憶に。十勝の四季が映えるダイナミックな空間づくり。
空間づくりで特に重視したことのひとつが、ファーストインプレッションの感動です。エントランスから入った瞬間の最初の光景を、ずっと心の中に残していただけるようなものにしたいと思い、すぐに目にとまる位置に中庭を設けています。
冬は可愛らしいかまくらの雪景色、夏は十勝川の石が並んだ河原を思わせる景色・・・など、美しい十勝の四季折々の姿を最初の瞬間から感じていただきたいです。
また、ルーバーを大胆に用いた大きくて高い天井、そして天井へと伸びるシンボル的なアダルさんのい草のベンチが、十勝のスケール感と見事に合わさり、非日常の開放感をもたらします。
実際に体感してベストな家具を選定。二期や三期に向け、さらにアップデート。
家具も「非日常」を意識して選定しています。とにかく日常にはないもの、他にはないものを探し続けました。
アダルさんのことは、同じ宿泊業の経営者の方から良い評判を聞かせてもらっていたこともあり、依頼をさせていただきました。福岡のショールームで様々な提案をしていただき、い草のシリーズをはじめ、他にはない家具、非日常の家具に出会うことができました。
工場見学もさせていただき、工場長と直接お話ができたことも、ありがたかったです。とても真摯に家具づくりと向き合っていて、その真面目な姿勢が家具に反映されていると感じました。
お客様からも非常に好評で、家具を気に入ったというお声をいただくことが多いです。一般的にホテル・旅館では、ベッドの寝心地のご感想をいただくことはありますが、ソファやベンチについてのお声をいただくのは非常に珍しく、とても嬉しく思っています。 特に、い草の家具は驚かれることが多く、写真や動画の撮影風景をよく目にするので、喜んでいただけていると肌で感じます。い草の香りも評判が良く、すべてい草の家具にしたい!と思っているほどです(笑)。
カタログに掲載されていた色味ではなく、十勝の青空を表現したいという想いを理解していただき特注で対応していただいたことも、大変感謝しています。
サービス面だけでなく空間づくりにおいても、お客様の声を反映しながら工夫・改善を重ねてまいります。今後は二期工事、三期工事を予定しており、その度に非日常感をアップデートしていきたいです。
十勝の大らかな心地よさを宿にも。歴史と風景のレイヤーを重ねて構築。
十勝の風景から生み出された表現、大きな空を味わえる空間設計。
ヒココニシ アーキテクチュア株式会社
CEO / 一級建築士
小西 彦仁
十勝には開拓によって育まれた歴史があり、約150年前の開拓の風景が原風景だと考えています。ただの和ではなく、十勝にしかない風景、十勝に訪れた意味を感じていただける空間を構築するため、そういった背景を反映させながら組み立てていきました。
建物の中にありながら十勝の大自然に包まれる「はなれ」の様な客室の外観は、十勝の開拓者の家から着想を得ています。また、空間をつなぐ長い回廊は真っ直ぐ続く防風林の光景をイメージしており、グリッド状の美しい田園を想起させる畳の回廊です。
さらに、宿周辺の森と大きな空が客室からも露天風呂からもよく見えるよう、総平屋建てにして中央に中庭を設けました。中庭には、十勝の四季折々の風景がありのまま広がり、とても美しいです。雪の反射光まで計算しているので、雪の季節には光が雪にあたって客室内が心地よい明るさに包まれます。
全体的に天井が高く、十勝の大自然のスケールの大きさをそのまま感じていただけるような“大らかな空間”を目指しています。十勝ならではの歴史・風景のレイヤーを丁寧に重ねて辿り着いた唯一無二の宿です。
天井へと伸びるシンボル的ベンチ。描き出すのは、十勝の夕日と青空。
家具の選定においても、十勝の大自然にフィットするダイナミックな家具を求めていました。そのため、い草という和のエッセンスがあり、天井が高く開放的な空間の中でもしっかりと映えるベンチ(落水)は、まさに探し求めていたデザインと言えます。
美しく染まったオレンジに十勝の夕日をイメージしたので、十勝の青空を想起させる特注色のラウンジチェア(葉月)も畳の色を特注でオーダーしました。
アダルさんの福岡のショールームで直接選ばせていただき、い草の家具のシリーズ「Look into Nature」もそのときに初めて目にしたのですが、これまでにない斬新なデザインに衝撃を受け、当初の家具のプランニングイメージから大胆に変更していったことを覚えています。ファブリックやフレームについても検討を重ね、次々と選び直していきました。
すべての家具が「清寂房」の空間づくりに込めた想いを体現してくれていて、特に天井へと美しく伸びるベンチはシンボル的な存在です。
家具は滞在中に最も触れるもの。その質が建物の価値を印象づける。
家具は宿泊客が最も触れるものなので、その触り心地や座り心地、使い勝手が印象に残りやすく、建物の価値に直結します。そのため、ラグジュアリー宿であれば尚更クオリティーの高さが重要です。
アダルさんの家具はモダンなラインが多く、バリエーションがあって選びやすいと感じます。ショールームだけでなく工場見学もさせていただいたのですが、耐久性への研究もしっかりされていて安心感がありました。今回のプロジェクトでは、和のエッセンスとモダンのバランスが良く、これまでに見たことがないような斬新なデザインで空間にフィットする家具を選定でき、とても感謝しています。
家具は消費するものではなく、使い続けるほどに味が出てくるもの。今後も、張り替えをしながら受け継がれる劣化しないデザイン、サステナブルな家具の開発を願っています。