島根県の水都松江。そこで明治時代から140年以上の歴史を紡いできた「松江しんじ湖温泉 大橋館」が、コロナ禍における松江市全体での改修をきっかけにリニューアルしました。
“現代における日本旅館の在り方とは?”を追求し、導き出した「和魂洋才」の心地よさ。地域とともに踏み出した新たな一歩について、大橋館の若女将・石飛順子さんにお話を伺いました。

大橋館

若女将 石飛順子様

1軒だけになっても 残るという決断に感謝

明治の頃からたくさんの旅館が並んで賑わっていましたが、時代の流れによる廃業や穴道湖沿いに造成された旅館団地への移転などがあり、現在このエリアに残っているのは大橋館だけです。私は1軒だけになってもこの場所から動かなかった代々の皆さまに感謝しています。
目の前には大橋川、右側に松江大橋があり、大橋の向こう側は穴道湖。夜になると大橋がライトアップされて、水面の光もすごく美しいんですよ。そういった素晴らしい眺望が当館の最大の特徴だと思いますし、この場所に残る道を選んでくれて本当によかったという気持ちです。

老舗であり現代風、「和魂洋才」を大切に

夫のジェームスとは彼がハワイの大学に通っていたときに出会い、卒業して数年後、こっちに引っ張ってきました(笑)。接客も料理も何でもできる人という印象で、すごく明るいんです。誰にでも話しかけていきますね。最初は“旅館”がどういうところなのか分かっていなくて、ホテルとの違いに驚いていました。
ジェームスが始めたグリル&バーのスペースは、もともと小料理屋だったのですが、その後は休憩場所のような感じで長らく使われていなかったので、そこを活用しています。バーのお客様は松江に住む海外の方が多く、地元の方々の憩いの場としてもご利用いただけていると感じますね。
老舗旅館ではありますが、かしこまった雰囲気ではなく、いつ訪れても心地よい距離感でのおもてなしを感じていただけるよう意識しています。老舗ならではの趣は守りながら、現代のスタイルに合わせた快適性やサービスも柔軟に取り入れていく。どちらも兼ね備えたイメージで、「和魂洋才」を大切にしています。

純和風から和モダンへ い草の家具は即決

コロナ禍をきっかけに、松江市全体で改修が始まりました。観光庁の補助金を活用し、コロナ禍が開けたら新たに再開できるよう、賑わいを取り戻せるよう取り組みました。
当館では、純和風から和モダンの空間にガラリと変えることにして、アダルさんの家具は設計士の方が提案してくださったんです。い草の家具を初めて見て、すごくいいなと感じて、すぐに決めました。い草とソファは、まさに和魂洋才ですよね。特にロビーの丸いソファはピンクやイエローでインパクトが強く、リニューアルした!というのが瞬時に分かる。もう即決でしたね。リニューアル後は、やはりカラフルでポップな印象が好評で、嬉しいお声をいただいています。

客室も半分以上を和モダンのベッドルームに変更しているのですが、ベッドにすると洋室のイメージが強くなりがちなところを、組子デザインのチェアなど和のエッセンスを取り入れることで、旅館の和の心地よさも感じていただけるように工夫しています。展望温泉風呂を設けた客室もあり、大橋川や穴道湖を見渡しながらリラックスしていただけるので、そちらもぜひ体感していただきたいですね。さらに、文豪の小泉八雲が松江で初めて滞在したのが「富田旅館」なのですが、当館はその富田旅館を継承しているため、「小泉八雲ゆかりの宿」としてコンセプトルームも新設しています。
また、松江市全体のリニューアルのテーマがユニバーサルデザインだったこともあり、スロープを導入して、客室も半分程度スライディングのドアに変更し、なるべく段差のない設計にしています。誰もが安心・安全に旅行できるエリアを目指し、地域全体で取り組んでいるところです。

松江市全体を盛り上げ この場所でこの景色をずっと

今後は松江市全体をもっと盛り上げて、松江に訪れるお客様を増やしていきたいです。もちろん、それは1軒だけではできないので、松江市の方々と力を合わせて取り組んでいきます。
リニューアル後はインバウンドのお客様も増えましたが、以前から松江市はインバウンドのお客様が少ないと言われているエリアです。しかしそれは、それだけ伸びしろがあると思えますし、1度でも来ていただけたらすごく喜んでいただけると確信しているので、個の旅館としてはもちろん、松江市の旅館としても、水都松江に旅行してみたいと感じていただけるように活動していきます。
これからも、この場所で旅館を続け、ここからの景色を守ります。代々の皆さまの想いを受け継ぎながら、この場所でずっと頑張っていきたいです。