私たちは現在、これまでの当たり前が根底から覆されるような事態に直面しています。その中でも大きく変わってきているのが「働き方」。「働き方」が変われば、「オフィスの在り方」も変わります。「オフィスという空間づくり」について第一線で活躍する設計者はどう捉えているのか。生の声を追った特別インタビュー企画です。

オフィスは企業らしさを体現し、カルチャーを創っていく場所。
出社する目的、空間としての価値がより重視される時代に。


株式会社 ザ・デザイン・スタジオ
シニア・プロジェクト・デザイナー 富本 亮太
1967年の創業以来、半世紀以上に渡りオフィスデザインを行ってきたデザイン会社
「株式会社ザ・デザイン・スタジオ」の富本氏にお話をお伺いしました。

https://www.tds-tokyo.co.jp/

生み出されたスペースをどのように活用するか

これまで数々のオフィス空間デザインに携わらせていただきましたが、働き方の変化にともない、「オフィスに出社する目的・価値」がより問われる時代になってきていると感じます。職種によって違いはあるものの、出社の機会が減っている状況なので、以前のように◯人いるから◯席必要とは限りません。 出社人数が減ったことで 生み出される新たなスペースをどのように活用していくかということが、これからのオフィスづくりにおけるポイントのひとつと考えています。
オフィスへの意識が、「行かなければならない」から「今日は○○をするために出社しよう」という感じに変わってきているんですよね。だからこそ、出社した際に何を得られるのか。出社した人々同士のコミュニケーションも、より重要になっています。

アイデンティティを社内外へ伝える役割

オフィスの空間デザインに携わらせていただく際、企業のアイデンティティを社内外へ伝えられる場所にすることを常に意識しています。
例えば、資生堂ジャパン様のオフィスビル内に設けられた2つの食堂を担当させていただいたときは、テーマが「美とワクワクを食べる」でした。そして、そのテーマを大前提として、9階と23階に2つを色味・テクスチャーなど対照的なものを使用したデザインにしました。テーマが同じにも関わらずデザインを対照的にしたのは、いつも近いフロアの食堂にばかり行くのではなく、どちらの食堂にも行きたくなるように誘導することで、離れたフロアで働く社員同士のコミュニケーションを促進したいというご要望があったからです。

9階の「CUE」は黒を基調とし、金属や石の素材感を活かしながら、街中にあるアートギャラリーのようなテイストを創り上げていきました。そして23階の「番+美」は白を基調とし、淡い色調の木素材を中心に用いながら、自然の中に佇むダイニングを表現しています。

そんな2つの異なる世界観を楽しみながら、「美とワクワクを食べる」という大きなメッセージを体感する。それはもう従来の社員食堂の枠を超えていて、ただ食事や休憩をするためだけの場所ではなく、企業のアイデンティティを感じとる場所、企業のビジョンを体感できる場所だと言えます。また、空間デザインだけでなく、提供されるメニューや催される行事など、すべてのエッセンスが相まって、ひとつの空間が完成しているところもポイントですね。

コンセプトにもとづき、インテリアやアートを活用

設計に携わらせていただく際は、コンセプトメイキングを大切にしています。例えば、総合人材サービス事業を展開されているマンパワーグループ様の事例を挙げさせていただくと、オフィス空間づくりのコンセプトは、「wind/unwind」という対の言葉から考えられています。このオフィスには、社員の方々だけでなく、新たな仕事を探している方が訪れます。そういった方々の新たな一歩を後押し、止まっていた時を動かす場所としての「wind(時計のネジを巻く)」、緊張感をやわらげ気持ちにゆとりを与える場所としての「unwind(心をときほどく)」という意味が込められています。

一方、社員にとっても2つの言葉はとても大事で、ON/OFFの切り替えという意味合いも込めています。このオフィスで実践されているABW(ActivityBasedWorking)に基づいた働き方もその一つです。オフィスエリアの大きな「ネジ型テーブル」はコンセプトや想いを体現したシンボル的存在です。ゾーニングやレイアウトだけでなく、家具やサイン/グラフィックについてもコンセプトを反映した計画としています。また、総合人材サービスの企業なので、「人の手のぬくもり」や「人がつくりあげる」ということも大切にしています。それを表現する手法としてライブペインティングによる壁面アートを採用しました。人が集まり、そこでしか生まれないものができる。企業の「人材」に対する想いも一緒に描いています。


企業の想いを形に

オフィスづくりには、企業の想いや姿勢が反映されています。マンパワーグループ様は、オフィスの製作過程を映像作品としてまとめ、オフィスツアーなども実施されました。社員の方々に向け、オフィスづくりに込めた考えや工夫を伝えられたそうで、「オフィスに行きたくなる」という感想があったと聞き、私も嬉しく思っています。
働く人やオフィスを訪れる人にオフィス空間を通して企業理解を深めることができれば、自ずとオフィスの存在価値は上がると考えています。

「Behind the scenes」(オフィス製作過程)
「Move to tamachi」(オフィス内観)

より新しい発想につながるコラボレーションを

通常は、全体設計後に家具のご相談をしますが、初期段階から家具メーカーをはじめ様々なパートナー会社とディスカッションできれば、より新しい発想や価値のもとでオフィス空間の可能性を広げていけると思います。図面が仕上がってからではなく、アイディアを出しながら一緒にデザインしていくようなイメージですね。より新たな発見や新たなものづくりがコラボレーションによって生まれ、より良い空間づくりに繋がっていくと考えています。


インタビューに登場したオフィス事例

資生堂ジャパン株式会社 オフィス
都内6か所に点在するオフィスを浜松町クレアタワーへ集約移転するプロジェクトに伴い、9階と23階に異なるコンセプトで2つの食堂をオープンした。

アダル納入商品 / 造作テーブル、ボックスソファ、造作ラウンドソファ、プランターボックス付き什器、ボックスベンチ

マンパワーグループ株式会社 オフィス
世界最大級の総合人材会社で、人材派遣・人材紹介事業を展開する。コンセプトにもとづいたゾーニングや家具・アートの活用で企業らしさを体現し、カルチャーの創造を促進している。