※この記事は、2024年3月発売のインテリア雑誌、「CONFORT」No.196に掲載された当社の紹介記事をアレンジしたものです。

アダルは業務用家具の企画・設計・製造・販売を一貫して行うメーカーだ。
とくにオーダー製品と自社企画製品を得意とし、そのアイデアと技術は海外でも注目される。サステナブルなものづくりに取り組む同社を、建築家・永山祐子さんと訪ねた。

アダルの前身は1953年に創業したイスヤ商会という。当初は椅子修理の個人商店だった。さまざまな椅子を直し、ほかにはない椅子の製造依頼も受ける中で技術を磨いた。さらに椅子の構造部製作と、椅子以外を扱う木工の2社を合併して現在に至っている。
「どんなニーズにも対応する機動力が強み。お客さまが何を望んでいるか的確に理解することが基本です」 と武野龍社長は話す。

同社に注目する永山祐子さんといっしょに最初に訪ねたのは、、2020年に新築移転した総合工場だ。「きれいですね。道具も材料もきちんと整理されている」と驚く永山さんに、「前の工場でもずっとこうしてきたので、これが当たり前なんです」と向江(むかえ)友輔工場長。

発注先からのオーダー指示書を見 てまた驚く。ものによってはかなりアバウトだ。小さく手描きしただけのイメージ。それでも製作には全く問題ないのだと武野社長は言う。それを読み解き、内部構造を逆算して樹種の選定やパーツ取りができる職人がここには多数存在する。

2020年に完成した工場は通路も広くゆったり。とても清潔なのが心に残る。
パーツの寸法を一つひとつ確認しながら進めるカット。1点もののオーダーも多いため重要な作業だ。

「依頼されたデザインはしっかり保ちつつ、安全性を確保するために材料や内部構造の変更などを提案することも多いですね。ホゾ穴などコンマ何ミリの世界ですから。家具の本質をわかっているベテラン職人たちが若い職人に教えている。だから実作業に入れば速いです」(武野社長)

この工場では椅子、テーブル、ソファなど月間6400アイテム、日々50〜60種がつくられていく。店舗1軒分の椅子・テーブルもあれば、1脚だけの特殊なデザインのオーダー、傷んだ椅子の修理もある。ベテランも若手も淡々と作業を進めているのは、皆、目の前のひとつに対して何をすべきか深く理解しているからだ。

これが同社の特殊技術である“斜線ホゾ”。ホゾ部を圧縮し、細かな斜め溝を入れることで接着剤が行き渡り、強度が高まる。

一つひとつの工程を見ていきながら永山さんはいくつかのことに格別に注目した。ひとつは同社の特殊技術である〝斜線ホゾ〞。
ホゾ部分に細かい斜線の溝を入れることで強度が増すんです」という向江工場長の言葉に「細かな工夫ですねぇ」

また同社がミラノデザインウィークで展示して注目された、い草を使った家具は、い草部分を外して交換できるようにしている。
「これなら海外ユーザーも傷んだら自分たちで交換でき、永く使えますね」

木材の廃棄を極力減らす取り組みにも着目。5軸CNC加工機で端材を削ってつくったオリジナルの干支置物はとても愛らしい。
また製造過程で出る木粉は酪農家が牛舎に敷く用に引き取る。敷地には木端材を粉末化し微生物資材化した、農薬を使わないにんにく畑もある。加えて木粉と樹脂を材料に、家具を3Dプリンタでつくる研究も進めている。

6CNCを活用するため、端材を削ってつくった干支オブジェは昨年の卯からスタート。今年の辰も限定販売した。社内女性スタッフのデザインだ。

さらに〝座り心地シミュレーター〞に驚く。工場入り口には硬さ・高さ・奥行きの微妙に異なるスツールが12個並んでいる。座ってみると感覚はあきらかに違う。納入先ごとにどのような座り心地が求められているか体系化しているのだという。永山さんは「言葉で言っても感覚はそれぞれ違います。実際に座って互いに確認できるのはいいですね」

工場のエントランス部にある座り心地シミュレーター。全部に座ってみた永山さんは、このシステムのわかりやすさに感嘆。

次いで本社ショールームへ。ここでは自社企画製品が多数。い草を使ったLook into Natureシリーズは、い草の魅力に感動し、また日本のい草産業衰退の危機感から生まれたものと説明も受けた。い草農家はこの30年で10分の1まで減った。だが自然素材の心地よさは国内外で求められているはずだ。

「縁(へり)があるとぐっと和になってしまう。色のきれいなステッチを使うのもいいかも」と言う永山さんに、武野社長も「それは良いアイデアですね!ぜひ検討します」

ゆったりくつろげるLook into Natureシリーズの寝椅子「SAKYU」で ひとときのんびり。
ライブオフィスで、様々な織りのい草サンプルを見ながら意見交換。左はこの空間のデザインをしたクリエイティブ事業部の露口治さん。

「小ロット対応も素晴らしいし、素材と最後まで向き合う姿勢を深く感じました」と話す永山さん。確かな思想を持った製造業の底力を知った。



木取りから塗装までを手掛ける木工場

製造1課ではテーブルなどの木工品、製造2課は椅子の木部を製作する。とくに2課では、オーダー椅子の発注書の絵を見て、表からは見えない内部構造を考え、パーツの木取りをCADデータに起こしていく。組み立てから塗装までの一貫工程。先進的な機器も多く導入されているが「家具づくりの本質は変わっていない」と武野社長。

武野社長は思い切った投資だったという5軸CNC加工機。データ入力により木材を3次元で加工できる。

最後はこんなに小さな木片に!

工場の最終工程に置いてあったかごには、ほんの小さな木片ばかり。
この写真は「こんなになるまで使うんだ!」と永山さんが撮った1枚。


型取りから始める張り地工場

製造3課が、同社ルーツであるイスヤ商会を端とする椅子張り部門である。生地の自動裁断機やミシンと並んで椅子張りの作業台が奥までぎっしりとレイアウトされている。古い椅子の修理や張り替えもここで行う。修理はアダル製品に限らず、どんなものも受け入れる。1点物のオーダーも多い。い草を使ったLook into Natureシリーズもここで仕上げている。

製造3課が入るエリアは、椅子張り作業スペースとしては、国内でも最大規模。

多数の工業用ミシンが並び、各々の椅子やソファに合わせた生地を縫う。1点物であれ数十脚のオーダーであれ、だ。
縫い上げた生地を張る。ここにはないが、その前に弾力もさまざまなウレタン材を、望まれる座り心地に合わせて組み合わせて取り付けていく工程もある。

ライブオフィスを併設したショールーム

アダル本社には社屋内3つの階に及ぶショールームがある。同社でデザインした製品が一堂に並ぶ場である。これらの製品をベースとしてオリジナルなデザインを依頼されるケースも多い。ミラノデザインウィークで注目されたLook into Natureシリーズや、特殊ミシンによるステッチ加工を施したソファなど独自性の高い提案力には永山さんも大いに注目したところだ。

古代史の舞台でもある金の隈にあるショールーム。4階のアダルクリエイティブプレイス福岡はライブオフィスとして公開。社名の由来である「Adviser for Amenity Life」を実現するため、製品を体感し、ブラッシュアップする場として活用している。
「トフィー」ソファ。特殊ミシンによるステッチもアダルならでは。永山さんも「可愛い!これをい草編みと組み合わせたら?」と提案。



永山祐子 Yuko Nagayama

1975年東京都生まれ。98年昭和
女子大学卒業後、青木淳建築計画
事務所勤務。2002年永山祐子建
築設計設立。20年より武蔵野美
術大学客員教授。主な仕事に
「LOUIS VUITTON京都大丸店」
「豊島横尾館」「東急歌舞伎町タワ
ー」など。現在、2025年大阪・関
西万博で2つのパビリオンが進行中。
www.yukonagayama.co.jp/