地域の声を受け、後継者探し。人と人のつながりで、次世代に

福岡県の那珂川市に位置する「喫茶キャプテン」。那珂川市は福岡市南部のベッドタウンとして発展を続け、2018年には人口が5万人を突破し、「町」から「市」となった。飲食店チェーンが立ち並ぶ通りの中、異質の存在感を放つのが、特徴的なゴシックアーチ型をした「喫茶キャプテン」だ。屋根と壁が一体の外壁には「COFFEE HOUSE」と描かれ、地域のランドマークであり続けてきた。

創業39年を迎えた2019年、前オーナー夫妻の体調面の理由から閉店せざるを得ない状況に至ったが、「この場所がなくなるのは困る」といった地域の声を受け、後継者探しがスタート。しかし候補者がなかなか現れず、最終的には後継者探しに協力していたメンバーの1人、木藤亮太さんが立ち上がった。木藤さんは、猫すら歩かないと言われていたシャッター通り商店街を再生するなど、“地域再生の請負人”としても知られる人物。

那珂川市には木藤さんの母方の実家があり、幼少の頃から頻繁に訪れていて、大学に進学後は那珂川を拠点に暮らしていた。先代オーナーに承継の意志を伝えるため訪問を重ねていたところ、何度目かの訪問時にたまたま木藤さんのおばあさんの話題になり、おばあさんが喫茶キャプテンの常連で、カウンターでよく木藤さんの話をしていたことから、先代オーナーとの距離が急速に縮まった。

また、現在の店長は、常連客が懸命に探してきて抜擢。店長との会話を楽しみに来店する常連客も多い。まさに、これまでの地域とのつながり、人とのつながりで受け継がれている。

大切にしてきたのは、変わらないこと。家具の趣が、その店の価値に

先代オーナーが底引き漁船の船長(キャプテン)だったことから、店内には操舵輪や航海灯など船にちなんだアイテムがインテリアとして馴染む。2019年8月より新たな“航海”に乗り出した木藤さんが大切にしてきたことは、「変わらないこと」。

店内には前オーナーが集めたロープワークや舵など船にちなんだアイテムを使用したインテリアが

その想いに呼応しているのが、40年以上も前の1981年に発売され、アンティークな雰囲気で背の鋲や木の造形がどこか可愛らしいアダルのイスたち。幾度かの張替えを経て、店とともに時間を刻んできた。

「家具の趣は、そのお店の価値になります。長い年月をかけて培われてきたものなので、同じ趣を出したいと思っても、すぐにはできません。その場所で味わうから格別に美味しいと感じていただけるような空間の価値を守っていきたいです」と微笑む。

クリームをのせるコツも受け継いだ「ウインナーコーヒー」は喫茶キャプテン名物
「ナポリタン」も創業当時からの名物

地域のアイデンティティを守り、住むまちから暮らすまちへ

木藤さんにとって那珂川は幼い頃から慣れ親しんできたまちだが、人口が急激に増加し発展するにつれ、全国チェーンの看板が目立つようになってきた。

「福岡市に隣接しているので、仕事も外食もショッピングも福岡市という傾向にあります。非常に便利で住みやすい場所ですが、もしこのまま那珂川らしい光景が失われていけば、他の利便性の高いまちでもいいということになりかねません。表面的には人口が増えて発展しているように見えるので、全国どこにでもある画一的なまち並みになっても問題意識を抱きにくいですが、人口が急激に増えたということは移住の方が大半ということであり、まちの魅力がなくなれば那珂川から出ていかれてしまう可能性も高くなります」と木藤さん。
「喫茶キャプテンを守ることは、地域アイデンティティを守ること」と語る。

那珂川ならではの光景を維持し、「喫茶キャプテン」を拠点に那珂川というまちの魅力・文化を広げていく。住居は那珂川にあるが、雇用も消費も福岡市という現状を少しずつでも変えていく。住むまちから、暮らすまちへ。地域の課題と向き合いながら、舵を切っていく。

新たな“キャプテン”の木藤さん

喫茶キャプテン
住所/福岡県那珂川市松木1-1
電話番号/092-953-0985
納入商品/コンゴ
営業用家具総合カタログ Vol.10 ’81~’82掲載