築50年近いビルをリノベーションするにあたり、世界に一つだけの家具が生まれた。きっかけは、今回のリノベーションを手がけた株式会社傳設計の岩本社長からの相談。
既存デザインの様々な制約の中で完成させた家具についてのお話はもちろん、本プロジェクトと向き合う岩本社長の強い想いに迫る。


エントランス部分にある分電盤を家具で隠す

築50年近いビルのリノベーションの中で、「エントランス部分にある分電盤が見えないように、家具で隠すことはできませんか」とアダルさんにご相談し、「スライド式の壁面什器」が完成しました。
アダルさんとは以前にお仕事をさせていただいていて、そのときの信頼感があったので、ひとまずアダルさんにご相談してみようと思ったんです。

既存構造という制約に合わせた寸法出しを工夫

壁面左側に既製品のダイヤル錠付き郵便受けを取り付けることが大前提だったので、そこが全ての基準となり、寸法出しに苦労しました。
寸法を割り出した後は、その寸法に合わせてスリットとフレームを入れてスライド壁面にも反映し、見た目に違和感なく仕上げてもらいました。
天井面と両側面も、フィラー(充填材)で隙間感をなくしてもらっています。

可動扉のレールは専用で製作し、 ストッパーも独自のおさまりを考案

さらに、可動扉に関しても「レール部分を見せたくない」というこちらの要望に対し、ステンレスレールを特別に製作していただき、ストッパー部も独自のおさまりを提案いただきました。本当に自然なスライド壁面にできあがって感謝しています。


通常閉めている可動扉を開ける様子。

通常のアダルさんの家具は、大量生産されて並べられたときのデザインのリズムや統一感の心地よさが見事ですが、今回のオーダーメイド家具の独自性・創造性も素晴らしく、両輪を持ち合わせたバランス感覚に魅力を感じました。

既存の制約を考慮しながら、新しい価値をプラスして再生。

古い建物のリノベーションでは、建物自体の既存デザインの制約をはじめ、いくつもの検討事項と向き合わなければなりません。
今回の「舞鶴DSビル」に関しては、建蔽率(敷地面積に対する建築面積の割合)がオーバーしていたため、まず面積の調整から必要でした。

さらに、内装解体後のスケルトンの状態を確認したところ、躯体(床・壁・梁など建物の構造を支える骨組)が真っ直ぐでないなど、既存図では読み取れない問題が発覚。設計や工法について見直すことになりました。天井の計画や設備の配管ルートなども検討を重ねています。

そうして建築・構造・設備すべてにおいて試行錯誤し、たくさんの方々のご協力によって、やっとプロジェクトが完了しました。 「古い建物に新しい価値をプラスして再生する」ということに、設計に携わる事業者として改めてじっくりと向き合えた良い機会でした。

株式会社傳設計
代表取締役 岩本 茂美


舞鶴DSビル
福岡県福岡市中央区舞鶴1-6-13
納入商品/エントランス壁面什器一式(扉可動式意匠壁)