2019年末、突如全世界を襲ったコロナ禍により、人々の生活は大きく変わりました。それは、働き方も同様。ソーシャルディスタンスを守ることはもちろん、ネットワークの発達により、リモートワークなど場所を選ばずに働く人が増えてきています

そんな状況のなかで、日本にも浸透し始めているのが「ABW」という考え方。多くのグローバル企業での採用が増えているという「ABW」とは、一体どういうものなのでしょう。また、「ABW」を導入することで働き方はどう変わっていくのでしょうか。

「ABW」が今注目されている理由

「ABW」はまだ聞きなれない、という人も多いでしょう。そこでまずは、「ABW」とは一体どのようなものなのか、また、導入することによって、どのようなメリットが得られるのかをご説明します。

「ABW」とは「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」

「ABW」とは、オランダの総合コンサルティング会社「Veldhoen+Company」が提唱を始めた働き方のひとつで、「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」という英語が示すように、働き手それぞれが「いつ・どこで・誰と働くか」を自由に決められるというものです。働く場所も時間も自由に決められる、と聞くと最近の考え方のように感じますが、実はこの考え方が最初に語られたのは1985年のこと。しかし実際にこの考え方が活かされ始めたのは、15年以上も後からだそうです。
好きな場所で働くことができる、という点では「フリーアドレス」に似ていますが、「フリーアドレス」はあくまでオフィス内限定での話。一方、「ABW」は働く場所はオフィスに限らず、また働く時間も自分の裁量で決めることができます。「フリーアドレス」よりも、さらに自由な働き方だと言えるでしょう。

働く人の価値観と働き方が変わりつつある

以前は、同じ時間に出社して、それぞれが決められたデスクで仕事を行うことが当たり前でした。しかし、様々な時代の変化に伴い、人々の暮らしは多様化しています。例えば、共働き家庭なので子どものお迎えを夫婦交代で担うことになり、時間に融通がきく働き方が求められている、などの事例は枚挙に暇がありません。さらに、2019年末から始まったコロナ禍で、リモートワークが受け入れられやすい土壌もできています。仕事と家庭とのワークライフバランスに対する考え方、また、それに伴う働き方の変化により、「ABW」を求める声は今後ますます増えていくのかもしれません。

ABW導入のメリットとは

「ABW」は社員と会社、それぞれにメリットがあります。まずは社員のメリットから見てみると…

●集中しやすい環境を、その日の気分で選ぶことができる
「ABW」は、働く場所の選択肢が多いのがポイント。カフェや個室スペースなど、その日によって集中できる場所を選ぶことができます。

●ワークライフバランスが調整しやすい
「ABW」では在宅勤務も選択肢のひとつ。子どものお迎えや介護などがある場合は、出勤時間を削減して、家庭のための時間や趣味のための時間を確保することが可能です。

●アイデアが生まれやすくなる
好きな場所で仕事ができる「ABW」は、もちろん気分転換も自由自在。外に出たり、いつもと違う場所で仕事を行うことで、思考が柔軟になり、新しいアイデアが出やすくなります。

このように、より生産性や作業効率を高めることができます。
一方で、会社側のメリットは…

●コストを削減できる
一人一台のデスクを用意する必要がなく、また、社員全員がオフィスにいるわけではなくなるため、オフィススペースを削減してコストを抑えることができます。

●従業員の満足度がアップする
日本ではまだまだ「ABW」のように自由に働ける会社は多くありません。そんななか、時間に融通がきき、プライベートも充実させられる会社で働ければ、従業員たちの満足度も間違いなく上がることでしょう。

●優秀な人材が獲得しやすくなる
従業員の満足度アップにも関係しますが、自分が思うように働きやすい会社は、多くの人が魅力的に感じて「働きたい」と思うでしょう。その結果、優秀な人材も集まりやすくなるのです。

など。
会社全体の働き方を変えなければいけないため、一朝一夕での導入は難しいですが、それに伴うメリットはあると言えるでしょう。

どんな職種がABWを導入しやすい?

飲食店など直接接客を行う仕事では、「ABW」の導入は難しいでしょう。また、昔ながらの気質が残る会社も難しいかもしれません。では、一体どのような職種が「ABW」を導入しやすいと言えるのでしょうか。

変化に柔軟な社風である

まず、“9時出社、18時退勤”を守ることが当たり前になっている会社が突然「ABW」を導入するのは難しいと言わざるをえません。
逆に言えば、どんどん新しいことに挑戦している柔軟な会社や、自由に働きたいと考える若手社員が多い会社は導入しやすいと言えるでしょう。

チャットやテレビ会議に抵抗がない

「ABW」で重要になるのが、チャットでのやりとりやテレビ会議での打ち合わせ。その日に社員がどの場所にいるかは社員が自由に決められるため、突然オフィスで打ち合わせを行うというのは、「ABW」では現実的ではありません。
日頃からチャットやテレビ会議に慣れている会社の方が、「ABW」導入に対して抵抗は少ないでしょう。

リモートでも仕事内容に支障が出ない

先に述べたように人と必ず接する必要がある接客業や、設備が整った施設でなければ作業できない研究職は「ABW」には向いていません。
一方、クライアントの元へ出向くことが多く、ほとんど社内にいない営業職や、一人で集中して考えたり作業したりすることが多い企画職や制作職は「ABW」に向いている職種だと言えます。

ABW導入事例から自社導入のイメージを

日本ではまだまだ知名度が低い「ABW」ですが、すでに導入している企業もあります。「ABW」導入企業がどのようなオフィスになっているのか、実際の事例を見てみましょう。

株式会社ビットキー

ライブショールームというキーワードを中心に、空間を通して温かなおもてなしの心、人への配慮が感じられるようなデザインで展開。また、意匠面では、ビットキーのロゴマークから想起される線的な表現を効果的に散りばめ、空間全体で一貫性を確保しています。エントランスから執務エリア、会議室に至るまで、すべてのエリアに狙いがあり、すべてのエリアが目玉となっています。

株式会社PHONE APPLI

「働く」を変えるコミュニケーション改革に取り組む株式会社PHONE APPLIでは、コロナ禍の前からテレワークを導入。社員一人ひとりが働く場所を自由に選べる体制を整えています。自然の心地よさを取り入れ「CaMP(キャンプ)」という愛称で親しまれるオフィスでの仕事と、テレワークを組み合わせ、そのときの仕事内容に応じて使い分けるハイブリッドワークを可能にしています。

株式会社Hide&Seek

コミュニケーションとコラボレーションを生み出せることがオフィスの意味と捉え、面積の半分をフリーアドレス化。ミーティング・コワーク・リチャージそれぞれを確保できるゾーニングを構築しています。誰でも自由にカフェ感覚で使える空間をイメージし、皆が心地よく気分転換できる場所もつくることで、別フロアで働く社員同士がコミュニケーションを取りやすい工夫も凝らされています。

職種によって向き・不向きはありますが、グローバル企業から広がっていった「ABW」は今後ますます注目が集まっていく働き方だと言えるでしょう。これからは働き手にとっても、“どのような働き方ができる会社なのか”は重要な選択条件のひとつ。社員のパフォーマンスをよりアップさせられる環境づくりを考える時期が来ているのかもしれません。