賑やかさから離れほっと一息 ギャラリーのような雰囲気も魅力
1967年に福岡県古賀市で開業、それから10年以上の歳月を経て1978年に誕生したのが北九州市に位置する「ドン珈琲館 小倉店」だ。
路地裏に佇む、レトロな雰囲気の喫茶店。店内に入れば、深みのある木の温もりに包まれ、穏やかな時間の始まりを感じる。店主が同店を開く際にイメージしたのは、小倉の繁華街に訪れた人々が、ちょっと珈琲を飲んでいこうかと路地裏に入ってふらりと立ち寄り、「落ち着くなぁ」と一息つける場所。「店というのは、お客様と一緒に創り上げていくもの。店は大きなキャンバスで、様々なお客様の色が描かれていき、彩りに溢れていく。私は空気でありたい。お客様とのコミュニケーションはもちろん大切ですが、本当はいらっしゃいませとありがとうございますだけで、あとはお客様が心地よく思い思いの時間を過ごせる場所であればいい」と語る。

そうして、その“繁華街の賑やかさから離れて一息つける落ち着きの場所”には、だんだんと絵画や小説の作家たちも集うようになった。現在では20名以上の作家が順番に展示会を催すほどで、どこかギャラリーのような雰囲気も、お店の魅力となっている。
コーヒー豆と家具、そして癒しの存在。すべてが調和し、居心地のよさへ


カウンターの天板に目を向けると、そこに敷きつめられているのはコーヒー豆。そしてその独創的なカウンターに寄り添うのが、独特の背デザインでアンティーク感を醸すチェアである。もともと背の曲線の一番高いところはもっと高さがあったが、店主が空間やテーブルとのバランスを考え、カットのオーダーを出して納品された。まるでコーヒー豆の天板とセットだったかのように調和し、愛用されている。

さらに、そのチェアに座ってくつろいでいれば、なんとも可愛らしい存在に気づくだろう。店主と来店客を穏やかに見守り続ける、大型インコの「弥太郎くん」だ。弥太郎くんが最も落ち着ける定位置というのが店内にあるのだが、そこに自ら戻っていくときの姿にも癒される。
お気に入りの1杯と座り心地、そして店主と弥太郎くん。長く親しまれ続ける理由が重なり合い、“今日も寄ってみよう”を生み出している。
一生をかけて続けたいという想い、それはいつしか天職に

北九州で撮影された映画の中でロケ場所のひとつに選ばれたほど、独特の個性と魅力に包まれた喫茶店。「珈琲が特に好きだったとか、喫茶店をやりたかったとか、そういうわけではなかった。でも、私にとって一生をかけて続けられると思える仕事なので、それが天職ということなのだと感じています」と店主。「最期を迎えるとき、納得のいく旅立ちをしたい。生まれるときは自らの意志は関係ないと思いますが、旅立つときには納得をしていたいですね」そう続けた。今日も、一期一会の時間が描かれていく。

ドン珈琲館小倉店
住所 / 福岡県北九州市小倉北区京町3丁目6-19