昼は麺メイン、夜は居酒屋。家のように立ち寄れる憩いの場へ

2003年4月、53歳で脱サラをした川辺俊和さんが、妻の安子さんと一緒に開いた「麺処 かわべ」。昼はうどんメインで夜は居酒屋という、俊和さん念願のスタイルだった。
うまい・安い・はやいの博多うどん、食後には豆にこだわったコーヒーも楽しめるということで、どんどん常連のファンが増えていく。1日の中で2度（昼と夜）来店や、週に8回来店も珍しいことではなく、まるで自宅の食卓のような感覚で通える憩いの場になっていった。

接客では元気に楽しく！！を大切にし、スタッフと来店客のコミュニケーションで、店内はいつも和気あいあいとした雰囲気。常連客の好きなメニューはもちろん、お気に入りのスポーツ新聞まで把握していて、ときには常連客からスタッフへおやつの差し入れがあることも。カレーうどんが名物で、絶品イカ天丼やカツ丼などが日替わりで味わえる日替わりセットメニューも大人気。しかもランチ限定ではなく夜でも注文できて、多くの人たちに愛された。

食後はコーヒーでゆっくりリラックス。家具も喫茶店のような佇まいが特徴。

一般的にうどん店というとサッと食べて席を立たなければいけないようなイメージがあるが、ゆったり広々とした店内でコーヒーを飲みながらゆっくり過ごせる雰囲気も人気の理由。落ち着きと温かみが感じられる木のイスも印象的で、やや明るめのオレンジの座面が馴染んで映え、喫茶店かのような佇まいでずっと愛用されてきた。
そして2012年からは、息子の俊三さんが店長として引き継ぎ、安子さんと一緒に盛り上げていく。2014年に店内の改装を行ったときも、ゆっくり過ごせる雰囲気は変わらず守っていけるように意識した。

「慌ただしく感じずにリラックスしていただきたいので、アダルさんのテーブルとイスの重厚感は、そんな雰囲気づくりにピッタリでした。それに、開業当時から傷まず丈夫で、ぐらつかない。改装後も使い続けると決めていましたね」と俊三さんは振り返る。ご両親が大切にしてきた店内での光景が、俊三さん自身も大好きだった。

2022年8月、憩いの場が閉じるとき。その面影はずっと温かなままで。

地域にとっての憩いの場。安心できる味と笑顔。そんな「麺処 かわべ」の入口に、閉店の貼り紙が出されたのは2022年7月のこと。「体力面や人員不足もあり、本当は10年くらい前に店を閉める話が出たのですが、たくさんのお客様が応援してくださったことと、息子が現場を引き継いでくれたことで、ここまで続けられたと感じています」と安子さん。
閉店の知らせは、長年通う多くの常連客にとって大きな衝撃だった。貼り紙が出されてから閉店日まで毎日訪れる人々もいたほどだった。そうして惜しまれつつ翌月の8月に閉店を迎えたが、その面影はずっと温かなまま、心の中に映し出される。

麺処 かわべ（閉店）
住所／福岡県福岡市博多区博多駅南3丁目16-20
納入商品／豊
ADAL FURNITURE GUIDE vol.20掲載