コロナ禍で飲食業界全体が困難に直面している今、以前に掲載させていただいた愛され続ける老舗店の皆様に、改めてお話を伺いました。目まぐるしい変化との向き合い方、新たな取り組み、変わらず大切にしていること。追加インタビュー分も含めた再編集版で、どんな時代も愛される名店の現在地をお届けします。

くつろぎの鮮度が、心地よさの秘訣。守りたい味を追求し、営業スタイルをシフト。

五感で楽しめるコーヒーを追求。家具も喫茶店に合わせた仕様。

蘭の温室の跡地に開業し、1978年から続く老舗喫茶店「蘭館」。そのカウンターに立つのは、オーナーの田原順子さんと店長で息子の照淳さんだ。自家焙煎とネルドリップコーヒーへのこだわりを守り継ぎ、最高品質の珈琲生豆を世界各地から直輸入。五感で楽しめるコーヒーを追求し続けている。照淳さんは、九州初のSCAA認定「コーヒー鑑定士」となり、「ジャパンカップテイスターズチャンピオンシップ」で2度の日本一に輝いた。

『はたらく家具 第9号』に掲載時と同じく、グリーンベロアのイスとテーブルも健在。アダルの前身「イスヤ商会」時代に納品されたもので、高さやサイズなど、コーヒーを楽しむのに適した「喫茶店ならではの設え」に調整されている。いつ訪れても新鮮で、そして懐かしい“あの頃の喫茶店”。愛され続ける空気が、そこにはある。

音楽・アート・生け花、くつろぎの鮮度。営業スタイルをシフトし、品質を研ぐ。

昨今の社会の目まぐるしい変化にあたり、店主へインタビューを実施。
「何十年経っても新鮮な空間が心地よいと思うので、良質な音楽・アート・生け花を空間づくりにとり入れ、くつろぎの鮮度を保つようにしています」と語る照淳さん。常連の方から花をいただく機会も多く、必ず店内に生けるようにしているとのこと。心が落ち着く温かな空間は、お客様との絆で構築されていると感じる。

また、コロナ禍の前から、営業日数・時間を削って、その分だけもっと研ぎ澄まされたクオリティの丁寧なコーヒーを提供するスタイルにシフトしたいという考えがあったため、コロナ禍と重なるタイミングで営業時間を短縮し、店休日も週2日に変更。食事メニューに関しても引き算の思考で、あえてメニュー数を減らし、厳選している。
「自家焙煎したコーヒー豆を丁寧に淹れ、神経の行き届いた1杯をお届けしたい。それは味や香りだけでなく、カップなどについても全て。お客様の服装、装いから、カップの色や柄を選んでお出しすることもあります」と微笑む。創業から45年を経ても、親から子へと時代が移り変わってもなお、コーヒーへのこだわりを守り継ぎ、品質を追求し続ける変わらぬ姿勢が、愛され続ける理由なのだろう。

創業50年を見据え、原点回帰。心が落ち着く味と空間を守っていく。

最後に、これからに向けてのメッセージをいただいた。
「新しいことに挑戦するというよりは、味を守り続けていくことに意識を向けています。美味しくて丁寧なコーヒー、そして心が落ち着く空間をご提供していきたいです。いつでも新鮮な状態のお店であり続けるため、今後も生花、音楽、アートが必要不可欠だと思っています。あとは、カウンターや家具から、時代というか年輪のようなものを感じられる空間が素敵ですね。5年後には創業50年、半世紀を迎えるので、原点回帰の気持ちで進んでまいります」


珈琲 蘭館
住所/福岡県太宰府市五条1-15-10
電話/092-925-7503