博多区板付にある、昔ながらのお蕎麦屋さん「そば処 末広庵」。住宅街に囲まれたこの場所で、ご夫婦で店を開いて30年。このお店の長い年月の中で変わらないもののひとつが、木に深い味わいが染み込んだ椅子とテーブルだ。

ご主人のお父さんの紹介でやってきたこの家具たちは、30年間この店とともに生きてきた。家具が変われば空間が変わる。座の縄が擦れてきても椅子にクッションを敷いて使っている様子を見れば、常連のお客さんが慣れ親しんだ家具で食べてほしいというふたりの愛を感じた。



このお店の魅力は〝手作り〟。ご主人の手で捏ねた自家製麺はもちろんのこと、アジフライひとつとっても魚をさばくことからやるそうだ。さらにびっくりしたのがメニューの多さ。お蕎麦はもちろん丼料理、揚げ物、季節限定メニューなど選ぶのも大変だ。しかしご主人は、「これでも減ったんです!体がついていかんから!」と内容とは裏腹な元気な声で笑い飛ばす。

常連さんに毎日通って来てほしいという思いから、そのボリュームからは想像できない価格で提供しているそうだ。それにしてもご主人は奥さんにぞっこんである。ご主人にこの店の一番の売りを聞いてみると「 嫁さんの美しさ!」と即答(笑)。それを聞いた奥さんのはにかむ笑顔が、ふたりの仲の良さを物語っていた。

おふたりの出会いは、ご主人の修行先だった神戸のお蕎麦屋さん。当時、奥さんは神戸のお店でホールを担当していたので、福岡でお店を出す時は非常に心強かったそうだ。しかし、最初は1日の売り上げがすき焼き丼2杯だった日もあったという。今は常連のお客さんがほとんど。お店が忙しい時は、お客さんが察して自らお茶を汲みにきてくれるそうだ。このふたりの人柄に触れると何か手伝いたくなってしまうのも頷ける。以前は21時まで営業されていたが、今は19時まで。年齢を考えて、できる範囲でやっていこうと思っているそうだ。ふたりには、夫婦二人三脚、無理せず長くこの町の人たちに愛され続けてほしいと心から思う。このお店でずっと生きる家具のように。


そば処 末広庵
福岡市博多区板付2-13-19
tel.092-591-6497